ドイツの食事情

パン

日本では、ドイツパンといえば"固い・酸っぱい・重い"と思われていますが、それは100% 正しい答えではありません。ドイツは、世界で一番といわれるパンの種類の豊富さを誇っており、その数はパンで300種・その他の小型パンや菓子パンで 1200種近くに登ります。(ドイツのパン年間消費量も、減少傾向にあるとはいえ年間一人あたり 80kg で世界一です。)フランス・イタリア・トルコなど パンの人気も高まり、数は増える傾向にあります。最近は、パン屋の形態も多様化してSB-Bäckerei または Discount-Bäckerei  などと呼ばれる、セルフサービスの安売りパン屋も急増しています。(日本式のセルフサービスはドイツではまれで、カウンターでほしいものを言って包装して もらう。)これらのパン屋では、東欧などで生産された安い冷凍生地(Teiglinge)がパン職人の手ではなく"売り子さん "によって焼かれていることが多いのです。それによって経費の大幅な節約になり、パンの安売りが可能になるのです。Brot

ガソリンスタンドやスーパーマーケットでのパンの販売量も、着実に増加しています。昔ながらの、村に一件のパン屋に毎日新鮮なパンを買 いに行く、というのは生活の変化に伴って過去の話になりつつあります。前記の安売りパン屋やスーパーのパンに押されて、小さな手作りのパン屋がどんどん減 少しています。その一方で、大型のパン屋(例えば、Kamps というドイツ最大のパン販売株式会社、1130ヵ所以上の販売店、世界的なコンツェルン Barilla の系列)は益々大型化している現状があります。ドイツのパンは、宗教的行事や祝祭日と密接な関係を持っているだけでなく、それだけで芸術と もいえる多様さを誇っています。キリスト教でパンはキリストの肉体を意味するのに始まって、クリスマスの様々な焼き菓子・シュトーレン、カーニバルのベル リーナー(ジャム入り揚げパン)、結婚式のケーキや飾りパン...。季節や人生の節目に欠かせないパン。パンの工場生産によってパン職 人の技術が消失することは、"文化的損失"ともいえると思うのです。

大まかに言って、北に行けば行く程ライ麦の多く入ったパンが食べられ、南に行く程小麦の割合の多いパンが好まれます。これは、気候と土 壌の関係により北ドイツでライ麦が多く生産されることによります。世界でも唯一といえるSauerteig(サワー種)を使ったパンが多く食べられていま す。ライ麦の割合が多くなるほど、パンは重くずっしりとし酸味の強い日持ちの良いものになります。(*パンの詳しいテクニックに関しては後日別記の予定) Gersterbrot (Hannover 近郊)、Berliner Landbrot(Berlin地域)、Schwarzwälder Brot (Schwarzwald 地方)など郷土色豊かなパンが多く存在しています。Brötchen も地域によって様々な形があり、様々な名称で呼ばれている ことはとても興味深いです。

パン屋(Bäckerei)でも近頃は多くのケーキが売られていて、菓子屋(Konditorei)との見分けがつ きにくいほどで す。しかしマイスター がBäckermeister かKonditormeister というだけでなく、パン屋と菓子屋には少なからぬ違いがあるので す。生クリームを使ったケーキやデザート・トリュフなどのチョコレート・飴菓子・マジパン細工等、繊細なものが菓子職人の専門です。パン職人の作るケーキ は、Blechkuchen と呼ばれる天板一杯に大きく焼いた素朴なものが多いのです。ドイツでは、品物の種類の重点によって次のように名称が決まりま す。

ドイツでは、500g 以下のパンはKleingebäck(小型パン)、それより重いものはBrot(パン)と呼ばれます。

以下の表は、呼び名決定する上で重要な小麦とライ麦の割合を示しています。

Weizenbrot

Weizenmischbrot

Roggenmischbrot

Roggenbrot

小麦粉

90-100%

50-89%

11-50%

0-10%

ライ麦粉

0-10%

11-50%

50-89%

90-100%

ドイツで粉は、日本のような薄力粉・強力粉といった分け方ではなく、ミネラル分の含有量によって分類されます。DIN(ドイツ工業品基 準規格)によって定められた方法で、粉を900℃に加熱し燃え残ったミネラル物質の割合が Mehltype と呼ばれる品番になります。例えば、最も一般的 な小麦粉 Type550 というのは、100g あたり平均して 0.55g のミネラル物質が含まれているということを意味します。ミネラル物質は、麦の外皮に 多く含まれているので、Mehltype の数値が高ければ高いほど麦の多くの部分が粉に使われていることになります。

ドイツでは、パンの名称が法律で規定されており、消費者の混乱を避ける上で重要な役割を果たしています。例えば Vollkornbrot は、少なくとも 90%全粒分が使われていなければなりませし、Spezialbrot の一つであるButtermilchbrot (バターミルクパン)は、100kg の粉に対して少なくとも15Lのバターミルクが使われていなければなりません。Butterkuchen は、油脂としてバターの使用 だけが許 可されているという具合です。その他にも、パンの重さや賞味期限・商品の表示に関しても細か く法律で決められています。

日本ではあまり知られていないのですが、ドイツでは "Dinkel" という麦に根強い人気が あります。特に南ドイツで多く栽培されている品種です。日本語では"ドイツ小麦"と訳されていることが多いので すが、これは小麦の原種に近い品種で頴(えい)・のぎなどと呼ばれる堅い外皮(Spelz)に覆われています。その皮を剥く特別の工程が必要になるため、 価格は小麦・ライ麦に比べて割高です(2倍近く)。単位面積当たりの収穫量は小麦に比べて少ないのですが、肥料が少なくて済む点や外皮のために麦自体が環 境汚染の影響を受けにくいなどの点で注目されています。

パンを作るテクニックでは、生地のしまりが多少悪い点を除けば小麦とほとんど変わりません。しかし栄養的に見てDinkelは質の高い たんぱく質を多く含んでおり、しかもそれがたんぱく質アレルギーの人にも受け付けやすい形であるということで高い人気があります。他にも、ミネラルやビタ ミン・繊維質も豊富で、独特の良い香りが特徴です。小型パンを始め、トーストやパン・ケーキなど幅広く Dinkelmehl を使うことが出来ます。

DLG (ドイツ農業協会)や CMA (ドイツ農業中央販売促進協会)などが、年に一度専門家による品質検査を中立の立場で行っているの で、どのパン屋でもパンの送って評価してもらうことが出来ます。手数料がかなり高いので(例えば、DLG パン部門で一品約2万円)、参加しているのは中規 模以上のパン屋が大半です。良い点数をもらうと金・銀・銅賞して表彰され、それをセールスポイントとして販売を促進することが出来るのです。(この検査は パン・お菓子に限らず、ビール・ワイン・ソーセージなどの肉製品・インスタント食品・冷凍食品・ジュース・シリアル・牛乳及び乳製品・ミネラルウォー ター・シャンペン・リキュール・チョコレートや飴などの菓子類でも行われています。)

パンの味は、材料の品質にも大きく左右されますが、私の考えではそれだけではないように思います。人間や機械の都合に合わせようとすれ ばするほど、パンの味は落ちるようです。例えば、発酵時間を短縮しようと生地の温度か発酵温度を上げるか、発酵を促進する添加物を使うことになりますが、 イーストは味と香りを作り出す時間が十分ではないので平坦な味になります。パン工場では製パン機械が使われていますが、生地を機械の作動制ために堅めにす ることも多いのです。そうすれば機械は問題なく作動しますが、イーストの味と香りを作り出す活動は押さえられ味は落ちることになります。

私がはじめてドイツに来た頃は、どのパンもおいしいと思ったものですが、今はなかなかおいしいパンに出会わなくなりました。テクニカー の勉強のせいもあって私の評価が厳しくなったのか、長いドイツ滞在で私の口が肥えたのか、それとも本当にパンの味が落ちたのかはっきりは言えませんが、と にかく残念なことです。ドイツの誇るパン職人の技と伝統を守るために、私の出来る限りの協力していきたいと思っています。


Holzofenbrot

Holzofenbrot VerpacktHolzofenbrotHolzofenbrot untenHolzofenbrot Schnitt

今日、これまで買ったことがなかった近所のパン屋に入ってみました。販売のおばちゃんの対応は最悪・・・。全く感じ悪いったら!!受け答えも面倒く さそうで、おつりを渡すのに相手の顔も見ず、最後の挨拶もなし。パンの売り子さんの試験中だったら絶対落第してるよ、あのおばちゃん。二度と買いに行きた くないです。ドイツのパン屋では、欲しいものを売り子さんに言って買うことがほとんどなので、売り子さんの感じが悪いとひどい目に遭うことになります。ち なみにドイツでは、パンは写真のように紙に包んでくれるか紙袋に入れてくれるだけ。日本のように何重にもきれーに包装してくれることはありません。布かばんを持っていって、そこに直接入れてもらう人もいます。ゴミが少ないのはいいことです。

私が買ったのは、お 買い得品だった Brötchen(小麦の小型食事パン) 5個で1,15ユーロ、それに echtes Holzofenbrot(薪オーブンで焼かれたパン) 750g 2,60ユーロ。ブロッチェンは普通でした。Holzofenbrotはまず値段が高 いと思いました。1kgで3,47ユーロ。普通のパンならどこのパン屋でも1kg2,40ユーロほどですから。私が最近村のお祭りでHolzofenbrotを焼いた時は、1kgで3ユーロでした。(その時の模様は、食べるだけでしみじみ幸せになれるパンでどうぞ。)ドイツでは、食事用パン(500g以上のもの)の販売の際、1kgあたりの値段を表示することが義務付けられています。ですから、値段を比較することは簡単なんです。

パ ンの種類的には、極僅かにライ麦の入ったWeizenmischbrotだと思われます。目に付くのは、パンの裏にびっしり炭がくっついていること。 Holzofenbrotですから、少しは仕方ありませんが、これはひどすぎると思います。かなり大きい炭もあって、パン用のまな板が黒くなりました。ミ ネラル分豊富で、食べても健康に悪くはないでしょうが、余りおいしいものではありませんよね。パンの気泡の具合は悪くありませんが、新鮮なパンなのにとに かく中身がすでに硬くて・・・。生地が硬すぎた上に、発酵が浅いうちに窯入れされたのではないかと想像されます。(パンの断面が丸いことでも分かりま す。)こういうパンは、すぐにぱさぱさになって日持ちがしません。Holzofenbrotならではの香りはありますが、パンを噛んだときの香りが乏しい と感じました。(発酵が浅く生地が硬い、その結果イーストがうまみをたくさん作れないのです。)香りとうまみ成分の多くは、水分があってこそ人間が知覚で きるということからも納得のいく話です。パンに香りが少ない分、必要以上に厚くしっかり出来た皮の部分が苦く感じました。Weizenmischbrot の場合、皮の厚さは3-4mmが望ましいとされていますが、このパンは5mm以上ありました。

私の判定ー「このパンは2,6ユーロの価値なし」。あーあ、残念。でもそれだけ、おいしいHolzofenbrot を焼くのは難しいってことですね。ますます、おいしいHolzofenbrotを焼けるようになりたいと、意欲が増します!
(2007年9月11日)

その他の食料品

食料品は一般的に、日本よりも安いと言えます。特に安いのは、乳製品・肉・野菜・果物・穀類。チョコレートやビール・ワインなどのお 酒、コーヒー豆などの嗜好品もそれに含まれます。EU統合の影響で、季節にかかわらず何でも安く手に入るようになりました。チーズずきの私にとって、ヨー ロッパ各国からの本場のチーズの安さはうれしい限りです。しかしそれによって、ドイツ国内の農家がかなりのダメージを受けていることも忘れてはならない事 実なのですが。(ビオの食品に関してはドイツのビオ事情参照)

例えば(1ユーロ=135円として)、markt in hildesheim

季節のものを上手く利用して自分で手作りする限り、ドイツでの食費は日本よりも安上がりだと言えます。特に週に何度か立つ市では、地元 産の新鮮でおいしい野菜や果物が買えるのでお勧めです。日本では、ドイツの食材は季節感に乏しいと思われているようですが、マルクト(市場)はちゃんと季 節感にあふれていて、眺めるだけでも楽しい私のお気に入りの場所です。ささやかながらドイツの季節料理や郷土料理もあって、レシピを見つけては試作してみ るのが私の趣味でもあるのです。

ドイツ人の典型的な食事は、昼食が主餐で暖かいものがとられます。朝食はコーヒーに Brötchen という小型パンとバター・ジャ ム・チーズ・ハムなどが一般的です。夕食は軽めで、ライ麦パンとチーズ・ハムにサラダ程度です。種類が非常に豊富なので、変化に富んでいて食べ飽きること がないのです。ドイツ人の多くは2度目の朝食といって、昼食までの間に10時ごろ軽いものをとります。例えば、チーズをはさんだパン・サラミをはさんだブ ロッチェン・ヨーグルトなどです。りんごを始めとする果物・きゅうり・にんじんなどの野菜を食べている人もよく見られます。

働く女性の増加に伴って、昼に家で暖かいものを取る習慣が崩れつつあります。外食産業の発達には目覚しいものがあります。学校は基本的 に昼まで終わりですが、週に何回かは午後の授業もあるなど長くなる傾向にあります。子供達は今述べたような健康的な Pausenbrot (間食)よりもチョコレートバーやチップスそれにコーラを好む傾向にあ り、子供の肥満も年々増加しています。昼に家族そろって暖かいものを食べるという伝統の崩壊は、残念な気がしますがはそれは避けようのないことなのかもし れません。

ドイツでは、水分を取ることの重要性が頻繁に言われて、私も椎間板ヘルニアのリハビリ中毎日最低でも2リットル飲むように厳しく言われ ました。習慣にし てしまうとのどの乾きに敏感になり、いつも水の入ったボトルを持ち歩くようになりました。水分はからだの大部分占めているだけでなく、新陳代謝に欠かせな いものなのです。コーヒーや紅茶は逆に体から水分を奪うので、飲んだ場合はその分余計に水を飲む必要があるとドイツでは一般的に言われています。ドイツでは、炭酸入りのミネラルウォー ターが一般的によく飲まれています。日本ではあまり馴染みのない炭酸水ですが、飲み慣れるとさわやかで ジュースなどを割ってもおいしいものです。ドイツでは水道水も安全で、飲むことができます。硬水(ミネラル分が多く含まれている)で体には良いのでしょうが、台所のシンクや湯沸しポット・バスルーム には油断するとすぐカルキがこびり付いて真っ白になってしまいます。

「りんごの国」ドイツ

ドイツは「りんごの国」と呼ばれることがあります。ドイツ人はりんごをよく食べますし、ドイツではりんごジュースはオレンジジュースよりも一般的です。りんごのケーキも、ドイツ各地に数限
りなく存在します。りんご1kgは1-2ユーロですので、手軽なおやつとして大人から子供まで親しまれています。栄養面でも優れていますし、チョコレート バー等と違って食べた後口の中がべたべたしない上のどの渇きも癒してくれまから、移動中にはもってこいの軽食と言われています。
Apfeln

ドイツのりんご生産量は年間約95万トン(生食・加工用)で、世界一の生産量を誇る中国に足元にも及びません。しかし、ヨーロッパではスペイン・イ タリア・トルコ・フランスに次ぐ生産量を誇ります。消費量では一人当たり年間約20kg(加工品も含めると30kg以上)と世界のトップレベルにありま す。ドイツを旅した人なら分かると思いますが、ドイツでは実際によくりんごの木を見かけます。りんごの時期には、小ぶりでもいい色に熟したりんごがたわわ に実っているのをしばしば見掛けます。ドイツのりんごは、小さいですが香りがよくてみずみずしく酸味が適度にあって本当においしいものです。ケーキにも ぴったりなんです。日本ではそういうりんごを探すのに苦労したものですが・・・。

南ドイツでは、りんごの木やりんご園を個人で借りることは一般的によく行われています。週末などに、家族連れで収穫に精を出している姿もまれではあ りません。Streuobstwiese(果物の木を植えた原っぱ)は、戦後の経済復興時に様々な理由から減少していましたが、景観保護と動植物の環境の ために善いとして最近また見直されています。私の住んでいるヘレンベルクでも、土地の所有者でStreuobstwieseを作る希望者は、果樹の苗を無 料で受け取れるなど市の援助を受けることが出来ます。

そのような果樹園で出来たりんごは、もちろん生食やケーキ・ジャムなどの加工用に利用もされますが、小ぶりなので大抵ジュースなどに加工されます。 少しであれば自宅ででも出来るようですが、多くの場合地元の「農協」のようなところに運び込まれます。そこでジュースに加工してもらい、自分のりんごで 作ったジュースを持って帰ることが出来ます。加工賃は、1Lあたり59セントほどです。100kgのりんごから約60Lのジュースが出来るのだそうです。 100%のジュースはもちろん、Schorleと呼ばれる炭酸水で割ったもの・他のジュースとのミックス等も可能で、それぞれ加工値段が変わります。 Mostと呼ばれる「りんご酒」にしてもらうことも出来ます。「自分で作ったものを自分で消費する」って昔は当たり前だったのでしょうが、今の時代には限 りなく豊かな恵まれたことのように思います。私達は、輸入りんごでなく地元のりんごと地元のりんごジュースを買うことによってささやかな支援をしていま す。EUの農業政策でドイツの農業も厳しい状況ですが、将来のためにStreuobstwieseをずっと守り続けて行って欲しいと願うばかりです。 (2007年12月11日)

2007年のドイツのりんご生産高は、107万トン。1ヘクタール辺りの収穫高は33,7トンで、これまでの平均収穫高より24,3%高いものでした。最新の統計によると、2007年の内初めの9ヶ月間でさらに生食用りんご約50万トンが輸入されました。主な輸入先はイタリア。(2006年は786,700トンの輸入) (記事 Backspiegel
(2008年2月29日 追記)