最近、小さな良いパン屋を発見しました。内緒にしておくつもりだったのですが、うれしくって黙っていられなくなりました。ずっと気にはなっていたの ですが、ちょっぴり古びた店構えのせいで初めて店に入るのには勇気が要りました。今では私の一番お気に入りのパン屋さんです。マイスターとその息子さんだ けでやっている小さなお店です。販売も家族だけでやっているそうです。商品の種類は多くないですが、どれも手作りです。店構えも、最近流行のモダンなカ フェ・ビストロ風とは違って、いつか写真で見た昔の村のパン屋さんそのまま。頼んで見せてもらった工房では、これまた写真でしか見たことのないアンティー クものの機械が堂々と活躍していました。まさしく「パン博物館」!マイスター曰く、大規模パン屋やスーパーでのパンの販売などのせいで、経営はもちろん簡単ではないとの事。こうい ういいパン屋は、本当にがんばっていつまでも残っていてほしいと心から思います。
昔、15年ほど前に初めてドイツに来たときは、どのパンもみんなおいしく感じたものですが、最近では探さないとおいしいパンは見つからなくなってき ました。チェーン店がますます幅を利かせる一方で、小さなパン屋は苦戦を強いられどんどん消滅しています。 昔ながらの職人気質のパン職人は減る一方で す。職業学校でパン職人を目指すのは、大抵余り勉強の出来ないやる気のない若者たち。出来のいい若者が、深夜の肉体労働のよりも楽で給料のいいオフィス ワークを目指すのも納得がいく話です。
小規模なパン屋が、大手のパン屋と同じような品数を提供しようとすると、当然のことながら、インスタント製品を使うか半加工品を仕入れるなどの手抜
きをせざるを得なくなります。ドイツでパン屋に行かれることがあれば、よーく商品を観察してみてください。いくつかの店でそっくり同じものを見かけたら、
それはBäkoと呼ばれるパン屋の原材料を取り扱っている共同組合のインスタント製品かもしれませんよ!
このページでは、随時私の見つけたお勧めのいいパン屋を紹介していきたいと思います。 (2006年11月21日)
このページで、ドイツのおすすめパン屋を紹介していくと書いたところなんですが・・・。よく「ドイツでお勧めのパン屋を教えてください」と聞かれ て、困ってしまうことがあります。なぜかというと、ドイツではいわゆる「行列の出来る人気店」というのは余り見かけないんです。みんな大体ご近所の店で買 うからです。なんといっても、毎日食べる主食ですから。日本でいうと、「お米の銘柄は指定しても、どこの店で買うかはそんなに重要じゃない」というのと似 ているかもしれません。ご近所の数箇所のパン屋の中で、どこに行くかという選択はしますが、わざわざ人気の店まで買いに行くなんて事は聞いたことがありま せん。たまたま、通りかかったら買うくらいでしょうか。ドイツではマイスター制度のおかげで、日本と違って「大はずれ」することがないというのもその理由かもしれません。
「売れてる」とか「流行ってる」と聞くと、日本人は血眼になる気がしますが、個人の好みっていうのはどうなるんでしょう。味って、誰かがおいしいと いったらおいしく感じるものじゃないと思うんです。他の人全員が不味いといっても、本人がおいしいと思ってるんならそれは「おいしい」んです!逆に、みん ながおいしいと言っても自分の口に合わないことだってあります。それに、味覚ってとても微妙なものだと思います。どんな繊細で高価でおいしいはずのケーキ でも、仕事のストレスの中デスクに向かって大急ぎで食べたら、きっとちっともおいしくないと思うんです。紙皿にプラスティックのフォークだったりしたら、 もっと最悪です。風邪を引いてるときは、大好きなものを食べてもおいしく感じなかったり、遠足の山の上で食べたおにぎりはどんな物よりおいしく感じた り・・・それは、誰でも経験があることなのではないでしょうか。
私が言いたいのは、おいしい物を探すのに必死になって大金をはたく前に、おいしく食べる工夫をしてみてほしいということなんです。イライラしてたり 不幸だったら、何を食べてもおいしくないのは(というか、普通の味)当然だから、もっとおいしいのを探す前にそのイライラの元を少なくする工夫をしてみて 下さい。近所で買った普通のケーキだって、大好きな人と公園でピクニックして食べたら格別においしいはずだから・・・。 (2007年7月19日)
「パンの国」と呼ばれるドイツでは、さすがにドイツパンは美味しいのですが、実は美味しいバゲットを見つけることはなかなか容易なことではありませ ん。ハッキリ言って、かなり探さないと見つからないです。幸い、うちの近所にはかなり美味しいバゲットを売っているパン屋さんがあります。短めのもの一本 で1.55ユーロしますが、香りがよく食べ応えもあってそれだけの価値はあります。昔私が働いていたことのあるパン屋では、ブロッチェンの生地をただ長く 成形して焼いたものがバゲットと呼ばれていました。普通のパン屋でバゲットを買って食べると、正にそんな味がすることがほとんどです。大きいばかりで、ク ラストは薄くて噛みごたえのない感じ。それにブロッチェンのようにきめ細かな気泡で、香りの少ないふわふわのクラム・・・。ドイツのパン職人学校では、一 応知識としてはフランス風のバゲットのことを習いますが、実技としてしっかり習うことは稀なようです。大きさにもよりますがバゲットの値段は、スーパーの 焼き立てパンで約50セント、普通のパン屋さんで約1.50ユーロ程です。日本では、フランス風パン屋さんがレベルの高いバゲットを販売しているので、そ れを食べ慣れている人には「ドイツのバゲット」はかなりのショックです。ですから、ドイツで食べるならドイツパンをお薦めします。ドイツのバゲットは、ゲ テモノ好きの方だけどうぞ!(2008年9月24日)
先日、Backhausで薪オーブンパンを焼いてきました!村の秋祭りで食事に出したり売ったりするために、婦人会がパンをBackhausで焼くというので飛び入り参加したのです。Backhaus があるのは、Stuttgart郊外のHerrenbergという町のさらに郊外。Kuppingenという村です。その辺りでは今でも昔のように、近く に住む主婦たちが家族の食べるパンを、Backhausと呼ばれる村の共同パン焼き小屋で焼いているのです。使用料は半日で2,5ユーロの安さ!(その代わり、薪は持参です。)主婦たちは、一日掛かりで冷凍庫を一杯にするほどのパンを焼くのです。
そこで使われているのはもちろん、昔から使われているAltdeutscher Backofenと呼ばれる薪オーブン。窯に薪を入れて点火・加熱し、灰を掃き出し、窯入れ。その全てが重労働で、時間はかかるし灰と汗まみれになります。コンピューター制御のオーブンと 違って薪オーブンは、蒸気注入機能もなければ温度設定もすることは出来ません。 焼き具合は、薪の種類や外気温・窯の余熱などによっても微妙に変化します。経験と勘がものを言う、炎と時間との真剣勝負です。 そ れを使いこなしていた昔の人(パン職人)は、本物の技術を持った職人だったのだなとつくづく思います。(余談ですが、その日灰を掻き出す金属製の道具が壊 れたのですが、あっという間に修理されすぐに使うことが出来ました。村の助け合いの精神とネットワークの実力を見せ付けられました。)
窯はまず2時間ほど掛けて300度以上まで加熱されます。パンを窯入 れする前にまず、高温でさっと焼くのに適したZwiebelkuchenやピザなどが焼かれます。そのおいしいこと!その日も、近所の親子が自分で作った ピザを焼いてもらいBackhausに来ていました。(その場合は、手間賃としていくらか払うか、現物で支払います。)その後、温度が280度前後になっ たところでパン生地の窯入れです。一時間以上掛けてゆっくりと焼かれます。薪オーブンで焼いたパンは、下からの強い熱と薪の独特の香り、石窯の内壁から満 遍なく伝わる熱の効果で、独特の味と香りが特徴です。初めは高温で、だんだん温度が下がって焼きあがることによって、外はパリッと中はしっとり仕上がるの です。地元の麦とジャガイモ・酸っぱくさせた牛乳を入れて作る幻の Bauernbrot。見た目に派手さはないけれど、日にちがたってもしっとりしていて、独特の甘味と香りがあってもうやめられないおいしさです!!噛め ば噛 むほど味わい深く、しみじみ幸せになるパンって、めったにないです。これこそ究極のスローフードではないでしょうか。薪オーブンパンが格別においしいこと は、煙の上がるBackhausの煙突を見て人々が次々と薪オーブンパンを求めてやって来ることが証明しています。中にはパン屋の袋を持った、パン屋帰り の人までいました!
パンを焼いた後、オーブンは190~200度くらいになっています。それは甘い菓子パンやケーキを焼くのにぴったりの温度なのです。その日は、 Hefezopfというイースト生地の甘いパンとプラムのケーキが焼かれました。昔の人は、エネルギーを無駄なく使っていたことには驚かされます。ドイツ でもパン作りをする人が減少し、パン屋でさえ輸入された冷凍生地を使っていたりする始末です。パンがどうやって作られるかを見て育つ、この辺りの子供は本 当に幸せだとつくづく感じました。この伝統が消えることなく次の世代に伝えられることを、心から願ってやみません。そのために私も、出来る限りの協力をし ていきたいと思っています。
この「パン作りの原点に返る」とでも言うような経験を、一人でも多くのパン職人さんに経験して欲しくて「薪オーブンでパンを焼く研修コース」を開催していこうと思っています。
ほのぼのと幸せを感じた秋の一日でした。(2007年9月3日)
昨日今日と、私の住んでいる町でBrotprüfung(パンの品質検査会)が行われました。これは、地域の職人組合が主催して年に一度 行われているものです。年毎に違う地区で開催され、今年はHerrenbergの市役所での開催だったという訳です。ドイツ人の主食であるパンの品質を管 理する目的で行われ、一般市民のパンに関する質問に答える場でもあります。ちなみに去年の参加結果は13のパン屋からの88種類のパンだったそうです。参 加は、それぞれのパン屋が自主的に行います。持ち込むパンの種類は制限がありませんが、どういう材料で作られているか・粉の配合などを明記しなければなり ません。
全てのパンは、味の評価を一定にするために一律24時間後に無記名で検査されます。検査は、ドイツ農業協会(DLG)が行っているのと同じ方法で行 われます。見た目・形・色・パンの外皮・パンの中身の弾力と色・香り・味・気泡などそのチェック項目は多く、評価は厳しいものです。試験官は、味覚と嗅覚 に集中しなければならないので一日50種程度しか検査することは出来ないそうです。評価の結果はそれぞれのパン屋に連絡され、改良の必要がある場合はその 指示と指導がなされます。(詳しいDLG式食品検査のやり方については、「製パン技術者」をご覧下さい!)
検査担当だったマイスターの T.Rolf 氏はその道35年のベテランで、パン業界の移り変わりを間近に見てきたそうです。1950年代にはこの
地域には650のパン屋があったのが、1960年代では100以下に減り、2007年現在では30以下に減ってしまったとのことです。多くの販売店を持つ
大規模なパン屋がどんどん台頭し、小さいパン屋がつぶれて行っている事がこの数字で明らかに分かります。昨今、様々な副材料(野菜やハーブ・香辛料)を生
地の中にも入れたような、バリエーションに富んだパンが数多く作られるようになった、とも彼は言います。数え方にもよりますが、ドイツでは300種類以上の
パンと1200種類以上の小型パン・菓子パンが存在し、その数は増加傾向にあります。ドイツの一人当たりのパン消費量は年間80kgとヨーロッパ随一を誇ります。ドイ
ツの今後のパン事情がどうなって行くか、まだまだ目を離せそうにありません。
(2007年9月19日)
検査結果によると、97%のパンがsehr gut (優)又はgut (良)と評価されたそうです。参加企業は11社。(地元の職人組合加入パン屋の43%)詳しい内訳は次の通り。
検査されたパン | 89 | 100% |
sehr gut (優) | 47 | 52,8% |
gut (良) | 39 | 43,8% |
befriedigend (可) | 3 | 3,4% |
verbesserungsbedürftig (不可) | 0 | 0% |
(2007年10月19日追記)
味覚というのは、体力と同じように個人個人違うものです。優れている人もいれば、劣っている人もいます。そして体力と同じように、努力することであ る程度 鍛えることも出来るのです。時々ベビーカーに乗った小さな子に、ファンタやコーラを飲ませているお母さんを見かけます。さらに、自分のフレンチフライをそ の子の手 に握らせていたりすることもあります。そういう時私は、その子は味覚の発達しないしない人に育ってかわいそうになー、と思います。赤ちゃん・子供の食事 は、味覚の発達を決定する重要な役割を持っていると私は思います。お菓子やファストフードの単調な味しか知らずに成長すると、様々な食品の微妙な味の違い を感じることが出来ないのです。いつも外食ばかりで、濃い味付けに慣れてしまうと、薄味では物足りなくなったりもします。それは味 覚が、簡単に鈍ってしまうことのよい例です。私は幸運なことに、自然の恵みの豊かなところで子供時代を過ごすことが出来ました。野菜の味が季節や種類に よってどんなに違うか、加工品と新鮮なものの味がどんなに違うかを自然に知ることが出来たのは、ありがたいことだと思っています。
日本に帰るたびに、止まることを知らないグルメブームには驚かされます。と同時に、世界中から美食を買い集めるほど、日本人の味覚は優れているのだ ろうかと疑問に思ったりもします。なぜなら「お袋の味の崩壊」が言われて久しいからです。前出の「おすすめパン屋?」にも書いたことです が、日本人の多くは「売れてる」とか「流行ってる」とかいう言葉と、行列に躍らされてることが多いような気がします。誰かがおいしいと言ったものなら、安心して おいしいと思えるとでもいうように・・・。
まず、加工食品とファストフードをやめて、地元で取れる季節のものを食べてみてください。野菜にも果物にも、それ自身に驚くほどの味と香りが含まれ ていることに驚くに違いありません。バタバタ何かをしながら食べないで、ゆっくり時間を取って味に集中して食べて見てください。かむたびに味と香りが感じ られることに気付くはずです。流行ってなくても、誰かが薦めたものでなくても「本当においしいもの」があることに気が付くはずです。みんなが味覚を鍛え て、自分の味覚に自信を持って味わうことが出来るようになれば・・・と願って止みません。
(2007年10月19日)
ドイツでは、未だに「量り売り」が大活躍です。マルクト広場に立つ市場ではもちろん、スーパーでも量り売りは現役です。望むならば、ハム一枚やバナ ナ一本、クルミ一個を買うことが出来ます。となると重要なのが「秤」の信憑性です。その昔、「パンの重さでごまかしをしたパン職人が拷問にかけられた」と いう話でも分かるように、秤の正確さは市民の生活を守る上で重要な役割を果たしています。ドイツではEichamtと いう役所が、計量機器の検査と管理を行っています。その業務分野は、スーパーなどで売られる包装済食品などの内容量のチェック・医療や環境、製造業の分野 での様々な計量器の精度管理・ガスや水道などのメーターの精度の管理など多岐に渡ります。違反や不正があった場合は、多額の罰金が科せられることになりま す。パン屋さんで使われているはかりも、もちろん検査の対象です。パン屋さんで働いていた頃に、秤に検査証が付いていて定期的に更新されなければならない いるのは知っていましたが、検査が実際にどのように行われるかは知りませんでした。最近、地元の広報誌に「法定計量器検査」に関する公示が載っていまし た。興味深いので、一部ご紹介してみようと思います。
私の地元へレンベルクでは、検査を必要としている計器を所有している人は指定された日の9時から12時の間に、地区ごとに指定された場所に出頭しな ければなりません。その際に対象になるのは、商用・公用・医療用・環境保護に使われていて持ち運び可能な「秤一般・(成人・乳児)体重計・食品用のはかり (マニュアル・デジタル)・血圧計」。検査にあたっては、計量器が清潔で正常に設定された状態で持ち込むことが義務付けられています。指定の日時に出頭で きなかった場合、通常の費用に加えてさらに高い手数料が掛かることになります。検査証のない計量器を使って業務をおこなった場合、高額の罰金が科せられま す。計量器の所有者は、自発的に必要な検査を受けることが義務付けられています。検査証は、種類によって違いますが1-2年、その検査証(計量器に貼り付 けられる)に記載してある年まで有効です。持ち運び可能でないものに関しては、その計量器が使用されている現場での検査が可能です。(例えば、パン屋さん で使われている大型の秤。床に組み込まれていて、その上に大型車輪つきの入れ物を乗せてそれごと量る。)その所有者は、役所の担当事務所に申し出て、検査 官の訪問日時を取り決めなければなりません。
このようにして、ドイツでは市民の生活が守られています。ちなみに、肉屋さんで「ハムを4種類各2枚ずつ買う」というのは普通で、通常別にいやな顔 はされません。せこいドイツ人はスーパーで、量り売りのキャベツを買うのに少しでも安くしようと、硬くて使えない外の葉っぱを引きちぎってから量っていた りします。「ゴミを買いたくない」ということですね・・・。
(2007年11月28日)