2002年の3月に、ドイツで「椎間板ヘルニア」になりました。床からかばんを持ち上げようと腰を屈めた瞬間、「バキッ」という 妙な音と共に猛烈な痛みに襲われました。それが、一年以上続くリハビリ生活の始まりでした。数日前に友人3人の引越しを手伝ったとはいえ、その時持ち上げ ようとしたのは小さなハンドバッグだったのですから、初めは何が起ったのか自分でも分かりませんでした。パン職人というのは、体力的になかなかきつい仕事 です。例えば最も軽い粉の袋で25キロ、砂糖など重いものは50キロもあるのです。そのせいもあってパン職人はこちらでは、男性が大半です。私は日本人の 女性としては体格のいい方で、自分は健康で体力もあるし、職人としての仕事で十分な筋力トレーニングができていると思い込んでいました。
断層写真撮影の結果、脊髄の4番目と5番目の間・脊髄の5番目と仙骨の間(LWK4/5、LWK5/SWK1)の二ヶ所の椎間板ヘルニア。背骨に負担のか かる”間違った姿勢”で重い物を持ち続けたこと、背筋・腹筋のトレーニング不足・精神的ストレスが原因と診断されました。家族に は「すぐ日本に帰ってきて治療するように」勧められましたが、長時間のフライトに耐えることは考えられずこちらで治療を続けることにしました。当初は咳や くしゃみをするのも笑うのも腰に響いて痛く、靴下を履く時など痛みで泣くほどでした。ちょっと無理をして歩き回ったりした時には、下肢に麻痺症状も現れま した。
私の母は保健婦なので、日本の基本的な椎間板ヘルニア治療の知識を知らせてもらいました。自分でもインターネットで情報収集した結果次のことが明らかになりました。
「最悪の場合を除いて手術は避ける」というのは日独共通ですが、治療過程にかなりの違いが有るということ。痛みのひどい初期、鎮痛のための注射や飲み薬が
処方されるのですが、日本式の治療ではその時期「安静」が最優先されることが多いようです。(コルセットなどもよく利用される)
それに対して、ドイツ式ではかなりトレーニングが重視されます。安静にして筋肉を使わなければ、筋肉は弱る一方でさらに弱い部分(椎間板ヘルニアの部分)
に負担がかかってしまう。筋肉を鍛えて筋肉で支えるようにし、負担を減らすことが大切だ、という考え方です。痛みをこらえて無理させるようなことはなく、
出来る範囲で少しずつでしたが。私の場合は、結局それが良かったように思います。
私の椎間板ヘルニアは、仕事中に起ったのではないので労災ではありませんが、健康保険からほとんど全ての費用 が支払 われました。(一部の治療で一部自己負担も有りました。)働けなかった4ヶ月間の間、健康保険と年金基金から最終税抜き給与の約 70%が支払われました。(この割合は、「何年働いていたか、扶養家族がいるか」等で変わってきます。)私には、まず20回のEAPと呼ばれる通いの治療プ ログラムが出されました。それでもまだ痛みがひどく、その後さらに3週間にわたるクアと呼ばれる集中治療に参加することにな りました。通うことになったのは、ハノーファーの中央駅の近くにある Gesundheitszentrum。古い工場を改装した建物は、病院などに特有の冷たさがなくきれいでしかも温かみのある雰囲気でし た。人によっては、泊まりこんで治療をすることもありますが(特にお酒やタバコ・麻薬中毒の治療など)、その場合は費用も高くなり一部自己負担しなければ ならないようです。
まず医師の診断があり、かなり細かいチェックが行われました。症状の診断はもちろん、血液検査・身体測定・尿検査・血圧測定・食嗜好・精神状態にまで及びました。
私に出されたプログラムは: トレーナーの指導・管理の下、
必要な人には、料理実習や食餌療法も行われていました。針・指圧・マッサージ・漢方なども多く行われていて、東洋医学への関心の高さには驚かされました。 その他にも、ドイツではヨガや針・灸・ホメオパチーなどのいわゆる自然治癒法も盛んです。ホメオパチーというのは、ドイツで確立された医学療法で、日本語では同種・類似療 法とも呼ばれています。「病状は自然界に存在する似た物質によって改善または完治される」という理論に基づいています。私自身ももう長年お世話になってい ますし、私の母のリュウマチも鎮痛剤を飲まなくても良いほどにまでなりました。本当に興味深いです。http://www.vkhd.de/
(追記 ホメオパチーには賛否両論あります。それに、ホメオパチーでの治療が適した病気と、そうでない病気があるのは事実です。ご自分で十分に情報収集の上、お医者さんともよく相談した後にホメオパチーを導入するか決定することをお薦めします。2007年9月19日)
治療の期間中は昼食が食堂で出されるので、治療に専念することが出来ます。(2週間後の診断で、私の治療は1週間伸ばされることになりました。)とても良 かったのは、希望者にはその後6ヶ月にわたって、週に2回程度のトレーニングコースが無料で提供されることです。それによって、せっかく付いた運動する習 慣を本当に定着させることが出来ます。私は週に各1回、ジムでのトレーニングと Wassergymnastik というプールでのトレーニングに参加しまし た。当時テク二カーの学校に通い始めていたので、授業が長引いた時などは、トレーニングに通うのは楽ではありませんでしたが…。
この時ほど、健康・トレーニングの大切さが身に染みたことはありません。それ以来、週に数回ジョギング・ウォーキング・水泳など出来る範囲で続けて
いま
す。ドイツでは、ちょっと運動する環境や設備が整っていますから、それほど難しいことではありません。例えば、へレンベルクの屋内プールの入場料は大人約
250円で、早朝6時から夜9時まで開いています。(週末は午前中のみ)腰に弱点は残ってしまいましたが、自分の体力と健康について考え直す良い勉強に
なったと思っています。
リハビリ中に参加させられてとても興味深かった、”腰・背骨に負担をかけない方法”を習う講習会です。この講習を通して、自分で いかに無意識のうちに腰に負担を掛けていたかが分かり驚きました。ドイツでは、健康保険組合が主催したり、市民講座等(健康保険組合から参加料が一部又は 全額負担される)で頻繁に提供されている講習です。
日本でも開催されるようになれば、きっと多くの人が椎間板ヘルニアを防げるのに…と思わずにいられません。
ウォーターベッドを使っています。日本では、医療分野以外での知名度がまだまだ低かった印象があります。ドイツでは、腰痛持ちの多いお国柄のせいか 愛好者は非常に多いですし、取扱店も数多くあります。私も椎間板ヘルニアを患って以来、普通のベッドで寝る時はいつも腰に妙な感じ悪さがありました。 ウォーターベッドにして以来、それがまったくないんです。好みの問題はあるかもしれませんが、「非常に快適ですよ」と声を大にして言いたいです。ご夫婦間 で体重差の大きい場合は、ダブルベッドでも水の入った袋を一人ずつ別にすることによってそれぞれの快適さが保てます。日本の ウォーターベッドについてはよく知りませんが、ドイツでは好みによって、様々なレベルで波の起こり具合を調節してもらえます。だから、ウォーターベッドで もほとんど波立たないベッドも可能です。私達の使っているのは、40%でかなり波立ちしますが、水に浮かんでいるような快適さです!しかもウォーターベッ ドは、水の入っている袋の老化を防ぐため常に一定の温度に保たれるようになっています。ということは、冬に冷たーいベッドに入っていくあの辛さから開放さ れるというわけです。冬はほんわか暖かく、夏はひんやり。私達のベッドは Softside という枠のないタイプのもので、下にはシーツやカバーを収納 する引き出しをつけてもらったので、便利です。船酔いする、相手が寝返りを打つと目が覚める等、 ウォーターベッドにまつわる色々なうわさはありますが、私達は全くありません。もちろん普通のベッドと比べるとお値段は高いですが、私達の買ったものでは指定されている通りのメンテナ ンスをすれば、10年間の保障付きです。普通のベッドのように、真ん中のバネやスポンジがだんだん弱って沈むなんてことはありませんから、考えようによっ てはお得だと思います。腰に持病をお持ちの皆さん、そしてベッドを買い換える予定のある皆さん、検討してみる価値はありますよ! (2007年7月20日)
ジョギングがしにくくなる冬場、週に一度プールに行って泳いでいます。近くに安いプールがあって、安くて早朝から夜遅くまで開いているというのは、 ドイツ ならではのことかもしれません。しかしつくづく思うのは、ドイツ人に浸透している「健康の自己管理」ということの大切さです。「自己責任」という考え方が ポイントです。病気になってからお医者さんにどうにかしてもらうのではなく、食べ物に気をつけたり、日々運動をしたり、定期的に検診を受けたり、自分の責任において健康を管理することが非常に普通に行われています。それに子供の頃から、それをしっかり身につけているということに驚かされます。もちろん、「公」はそれを可能にするハード面をバックアップしているということも忘れてはなりませんが。
健康保険でも、積極的にスポーツをする人や定期健診を受ける人には、ボーナス制度が取り入れられています。例えば保険金が安くなるとか、キャッシュ バックが受けられるなどの得点があるのです。虫歯の治療でも、過去に定期健診をきちんと受けていたかどうかによって(その証明のために歯科検診のスタンプ 帳のようなものがあります)、自己負担分の割合が多くなったり少なくなったりします。虫歯など「個人の努力を怠った」と見られる場合、自己負担額は高くな る傾向にあります。(保険の制度は頻繁に変わるのですが、現時点では。)多くのドイツのプールが朝6時から開いていることでも分かるように、「早朝の出勤 前に30分泳ぐ」というような人は極普通に存在します。1‐2時間の通勤もまれではない日本から見ると、うらやましく思えるかもしれません。確かに「豊か な生活」と言えるでしょうが、それを続けることは本人の「努力」に他なりません。学生時代のはもちろん、スポーツは歳を重ねるにつれて益々重要になって来 るのです。スポーツの楽しさを教えること、そして「健康の自己管理」の能力を身につけること、その重要性をつくづく感じています。自分の健康にアクティブ に働きかけると、身体もそれに応えてくれるような気がします。(2008年2月29日)