昔から、”ビオ”に関心がありました。昔、日本でビオなどという言葉がまだ知られていなかっ た頃か ら安全で自然でおいしいパンの事を考えてきて、”ビオ”にたどり着いたというわけです。 ”おいしいパン”って言うのは簡単ですが、突き詰めて考えるととても奧が深いものなんです。(少なくとも、私は そう考えていま す!)
パンの 材料はとてもシンプルで、基本的に”粉・水・塩・イースト”で つくられます。まず、粉が安全でおいしいためには、農地が安全でなければなりませんし農業用水も安全でなければなりません。空気が汚染されていないことも 重要です。おいしい水と空気のためには、豊かな森と土壌が不可欠です。そして何よりも人々が健康で幸せで、おいしいものをおいしいと感じられる、というこ とも忘れてはなりません。塩・イーストも出来ることなら工場生産のものではなく、自然塩・天然酵母ならなおさらいいでしょう。
これらのことを追求しているのが、ビオに携わる人々なのです。ビオ先進国ドイツのビオをもっと知りたくて、ビ オランドというドイツ最大で最古のビオの団体で2003年の夏に5週間にわたって研修をしました。私が働いていたのは、ニーダーザクセンに設置された革新 的な施設 Kompetenzzentrum Ökolandbau Niedersachsen です。そこではビオランドを始めとする計5つのビオ関連団体が、それぞれ専門分野を持ちつつお互いに協力し合って仕事をしていました。そこで 働く多くの人と知り合い話を聞けたことは、貴重な経験でした。例えば、ビオの意義と経済性、将来の可能性を説明し一件でも多くの農家やパン屋を ”ビオ”に転換してもらうこと、それを支援することが彼らの重要な仕事です。実際の仕事がどのように行われてい るかを間近で見ら れたことも、非常に勉強になりました。
EUの統合に伴って消費者の混乱を避けるため、各国からのビオ商品の品質を検査し分かりやすく表示することが必要になりました。 1993年以来、 EU統一のビオ食品安全規格が施行され、2000年からビオ関連商品の表示及び品質管理マークが統一・一新されました。(下の写真の中央部、緑色で描かれ た六角形のマーク)
ドイツには、ビオランド・デメター・ナチュアランドなど数多くのビオの団体があります。各ビオの団体の発行する品質管理マークは、 100以上を超えます。 各団体は、それぞれの理念に沿って運営されており、団体によっては特定の食品だけや特定の州だけに限定されていることもあります。
例えば
団体に加盟して認定マークをもらうためには、その商品と製造工程・製造現場が各団体の規定する品質管理検査に合格しなければなりません。(この検査は加盟 後も、定期的に無通知で行われます。)それに一定の加盟金を団体に収める必要もあります。
ドイツでは、ビオの食料品は少々割高なのにもかかわらず根強い人気があって、小さな町にでもReformhausなどの自然食品店があ ります。近頃 では普 通のスーパーでも、ビオコーナーがあって入手しやすくなりました。ビオの野菜果物の宅配サービスも稀ではありません。市や公共団体などの発行する無料のパ ンフレットで、ビオ関連商品(パン・野菜・肉・卵・果物等)の取扱店または直販農家の情報を得ることが出来ます。ビオの専門のイエローページもあって、本 屋で安く購入することが出来ます。それには食料品のみならず、レストラン・衣類・家具・化粧品類・建築造園・公園・病院・趣味・旅行に至るまで ”地球にやさしい暮らし”に関する全ての情報が掲載されています。(町によっては、Ö kologischer Stadtführer などというイエローページに近い”ビオのまちガイド”を無料で出しているところもあります。)
ビオの消費者は、社会的に見て学歴も高い豊かな層に多く存在します。それは経済的に、割高なビオの商品の購入が可能であること、それに ビオの理念に共感す るだけの知識と関心があることを意味するからです。その一方で、安売りディスカウントスーパー流行は衰える影もありません。”ビオの ディスカ ウントスーパー”の登場や、安売りディスカウントスーパーでのビオ商品の取り扱いなど、これまでの常識を覆すような動きもあります。 ビオの消 費者層は、変化の只中にあるとも言え、その変遷からは目が離せそうにありません。
「Bioは本当に地球に優しいか」
もう随分前に、雑誌「Time」でテーマになっていた興味深い議論です。最近はごく普通のスーパーでも、ビオの食品が手に入るようにな りました。当 然の ように、世界各国から年中ビオの果物や野菜が届いています。あ なたなら、チリ産のビオりんごを買いますか?それとも近所の農家で取れた、普通のりんごを買い ますか?私はビオに興味はありますが、厳格なビオ信者ではありません。ですから、きっと普通の「地元りんご」を買うと思います。輸送距離を考えると、地元 産のりんごの方が格段に新鮮なはずです。確かに、そのビオりんごの生産現場は地球に優しかったかもしれませんが、ドイツのスーパーで売られるまでの経緯 を全て考慮すると、見方は全然違って来ます。輸送に必要な膨大なエネルギーと梱包材料、それにそれだけの輸送距離に耐えるために、熟してないうちに収穫さ れているかもしれません。ポストハーベストなんて、全く使われていないと願いたいですが・・・。ほんのついさっきまで、近所の村の木 にぶら下がってたりんごのはじけるようなみずみずしさ、あふれる果汁と香り・・・。考えただけで唾があふれてきそうになる私は、やっぱり「まだらビオ」で すね。それに私は、冬にビオイチゴを食べたいとは思わないほうなので、ビオじゃなくても地元で取れた新鮮なその季節のものに飛びつきます。
地元志向の私ですが、ドイツ産のバナナを見つけることが出来ないならば、多少高くてもやっぱりビオバナナを買いたいと思います。普通の バナナの生産 者は、大量の農薬の影響で健康を害しているだけでなく、過酷な労働に見合わない低賃金で食べるものに困るような生活を強いられていると聞いたことがありま す。口に入るものの安全性に加えて、その生産者も健康的な労働環境で働き、正当な賃金をもらったという方が私もうれしいんです。ちなみに近くのスーパーで のビオバナナ(フェアトレードの もの)の値段は1キロあたり1.59ユーロ。普通のバナナは1キロ1.29ユーロです。たかが30セント。私は納得して払います。どんなおいしいも のでも、誰かの犠牲の上に成り立っているものなんてやっぱり堪能できない気がします。
ビオの食材を扱うアメリカのスーパーWhole Foods Marketは、一部のヒッピーベジタリアンが通っていた昔からは考えられない、年商5.6兆ドルの 世界的な企業に成長しています。ドイツでも、普通のスーパーが次々とビオの食料品を取り扱い始めて、ビオ食品の品薄状態も珍しいことではないそうです。 多くの食品製造メーカーがビオ商品の製造にも乗り出し、ビオパン屋がビオの粉を手に入れにくくなる事態も起きているのです。もともとのビオの考え方と一致 しない状況-ビオの大量生産・工場生産-も生まれてきています。ビオ食品はこの先どうなっていくのでしょうか・・・。
難しいテーマですが、「それについてみんなで考えて話して行動する」ってことが一番大切なのではないかと思います。皆さんは、どう考え ますか?
(2007年8月17日)
先日、ビオバナナが売り切れていて仕方なく普通のバナナを買いました。最近はずっとビオバナナを買っていたので、本当に久しぶりのことでした。食べ
てみて気付いたことは、明らかに味が違うということでした。バナナの味が品種によってどれ位違うのか良く知りませんが、その普通のバナナの味は明らかにビ
オバナナよりも悪いものでしいた。妙な後味(農薬の味でないことを祈ります・・・)が残るのと、ビオバナナに比べて香りが平坦だという違いでした。その違
いがどこから来るのかも興味深いテーマですが、「味と香りの良さ」というビオバナナを買うまた別の大きな理由が出来た出来事でした。
(2008年4月3日 追記)
最近読んだ「食品技術関係の専門誌」に、興味深い記事が掲載されていたのでご紹介します。
ドイツの大手乾燥パスタ製造会社Birkelが、 自社のビオパスタのパッケージにコンポスト化可能な新素材の袋を採用した。その袋はKobusch‐Sengewald社 製で、高品質8色のカラー印刷されている。その素材は再生可能な自然素材「セルロース」を主とし、しかもヨーロッパ及びアメリカのビオ規格とコンポスト化 可能素材の規格に則っている。こ の会社は最近では、セルロース主体の素材ばかりでなく、PLA(Poly-milchsaeure-Blend)(直訳 高分子乳酸ブレンド)をエキスト ルージョン(Extrusion)させた素材も販売している。何れの素材も、生物的に分解されコンポスト化可能である。
たかがパッケージ、されどパッケージ。「あなたは、どこまでビオ食品のパッケージにこだわりますか?」
確かに、パッケージも環境に優しいものならうれしいですよね。最近スーパーで買った「ビオブロッコリー」。何か違和感がすると思って考 えていて、こ の記事を読んだときにハッとしました。それはビオじゃない普通のブロッコリーと同じように、ラップでぐるぐる巻きに包装されていたのです。ドイツで野菜や 果物を地元の市場で買う場合は、ビオであろうとなかろうと包装は一切なしで採れたままの状態です。それぞれが布袋を持って行って買うのです。工場生産の 「ビオパッケージ入り」のビオか、ご近所の裸んぼのビオ・・・。難しい問題ですね。
(2008年1月8日)